4[SF][ファンタジー][小説]『竜を駆る種族』ジャック・ヴァンス 著 浅倉久志 訳 ハヤカワ文庫SF

竜を駆る種族 (ハヤカワ文庫SF)
ヴァンスの傑作を新装版で再読した。
やっぱりすごい。
1962年発表の作品で、人類の子孫が攻撃してきた爬虫類型異星人の捕虜を改造して自軍の兵器にする、という発想が出ているのがまず驚く。
そしてそのグロテスクな設定なんだけど、パラメータいじりや育成の楽しさというゲーム的な快感がちゃんと描かれていることに更に驚く。
キャラクターも単純な善悪でなく、一癖も二癖もありそうな感じでイカス。
ヴァンスの渋さ、って大人の味だ。
ただ、吟遊巫女フェイドはもうちょっと頑張れ、とは思った。

『世界の果ての庭』西崎憲 創元SF文庫

世界の果ての庭 (ショート・ストーリーズ) (創元SF文庫)
最初のエピソードを読んで、傑作だ、と思った。
そしてそれは最後のページを読み終えたときも変わらなかった。
アメリカ人研究者と日本人女性作家の触れ合い、久しぶりに帰ってきた若返る病気に罹っいる母親、駅のある平面が何階も重なっている世界で目覚めた元日本兵
美しく、抑制された、豊かな文章。
厚い本ではないけれど、長く楽しめる。
この本に出会えて幸せでした。

『SFマガジン700 【海外編】』山岸真=編 ハヤカワ文庫SF

SFマガジン700【海外篇】 (ハヤカワ文庫SF)
こちらも同じくSFマガジン700号の中から海外作品を集めたアンソロジー
最初から最後まで、SFマガジンで海外SF短篇を読んでいる、という強い感覚があった。
未読だったシェクリ「危険の報酬」をようやく読めたのがなんといっても嬉しい。
文句なしの傑作でした。
再読となるスターリング「江戸の花」は、単なるスターリングの日本趣味と勉強力だけでない良さが判ったし、ティプトリー「いっしょに生きよう」は、気持ち悪さと感動的のものが一緒になっている凄まじさに打ちのめされました。
ジャック・ウィリアムスンを読んだことが無いわたしすら泣かせるウィリス「ポータルズ・ノンストップ」も楽しかったし、このアンソロジーのラストはこれしかないだろう感じで、チャン「息吹」がぴったりと嵌っていて笑顔で読み終えました。

『SFマガジン700 【国内編】』大森望=編 ハヤカワ文庫SF

SFマガジン700【国内篇】 (創刊700号記念アンソロジー)
SFマガジン700号の中から国内作品を集めたアンソロジー
巻頭の手塚治虫「緑の果て」から鈴木いずみ「カラッポがいっぱいの世界」までは、コミックありエッセイあり小説ありで、SFマガジンを読んでいる感がたっぷり。
平井和正「虎は暗闇より」の迫力も捨てがたいが、わたしがSFマガジンを読み始めたころに掲載されていた作家として鈴木いずみ「カラッポがいっぱいの世界」の軽やかさに惹かれました。
貴志祐介「夜の記憶」からは書籍未収録作品が続く。
ここでは現代版惑星シリーズみたいな野尻抱介素数の呼び声」も楽しいが、秋山瑞人「海原の用心棒」がすごい。お腹一杯になる強力鯨SF。

『さよならの儀式』 大森望・日下三蔵編 創元SF文庫

さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

創元SF文庫の〈年刊日本SF傑作選〉の第七集。
今回も安定の満足度、いや、傑作揃いで驚いた。
巻頭表題作の宮部みゆき「さよならの儀式」が、泣かせロボット物の定番感ある話と思いきや、主人公の心情設計の巧みさで陳腐さを回避して傑作に。
そこに藤井大洋「コラボレーション」草上仁「ウンディ」オシキタケヒコ「エコーの中でもう一度」藤野可織「今日の心霊」と様々な方向性の傑作が続く。
ヒリヒリするラノベ石川博品「地下迷宮の帰宅部」圧倒的に哀しい怪獣漫画、田中雄一「箱庭の巨獣」を堪能し、センチマーニの友人に感情移入する不思議さを円城塔「イグノラムス・イグノラビムス」で味わい、詰め込み過ぎなカッコよさと潔さともったいなさを冲方丁「神星伝」で痛感する。
そして今回最も気に入った作品は巻末の門田充宏「風牙」。
サイコダイビング+犬。
サイコダイバー物が、というか人の記憶がある種のタイムマシンとして作用することを見事に活かした傑作。
そして、そこに犬が重要な役割をはたしていれば、これは読むしかないでしょう。

記憶と言えば前巻の『極光星群』を読んだ記憶がないことに、途中が気がついた。
買った記憶はあるのだけど……。一年ってあっという間だ。

『獅子の門』鬼神編 夢枕獏 著 カッパ・ノベルス

獅子の門 鬼神編 (カッパ・ノベルス)
『獅子の門』、ここに完結。
……本当に終わってた!
最初に読んだの大学生のころですよ。
長い時間をかけて全9巻。
当初の若者群像とかけ離れた雰囲気になりましたが、風のような男・羽柴彦六がいる限りそれは『獅子の門』です。
久我重明まさかの大躍進(板垣版『餓狼伝』でちょーおいしいキャラになったのを見た獏さんが、俺の方がもっとすごい重明を書けるもんね、と張り合った所為と勝手に思ってます(笑))により、彦六VS重明がラストバトルに。
トーナメントに出てきた外国人選手たちが、元ネタが判りやす過ぎるネーミングや普通すぎて残念(マリオのえげつなさは良かったけど)でしたが、その分岩神京太がギャグすれすれ になるまで頑張ってのでトーナメントを盛り上げてくれました。

第六章、それぞれが桜の景色の中で思っている姿、獏さんだな〜と堪能しました。美しい。

完結しましたが、ジーンズ・Tシャツを着てくしゃくしゃの髪で人なつこい笑みを浮かべた彦さんにはまた会えるような気がしてます。
そして読み終わって、彦さんは大人になった矢吹丈なんだ、と気が付きました。