『ユダヤ警官同盟』マイケル・シェイボン 著 黒原敏行 訳 新潮文庫

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)
SF界3冠制覇の傑作。
ダメ人間主人公の作品は基本的には好きではないんだけど、この作品はばっちり乗れましたし、主人公マイヤー・ランツマンにはしっかりと感情移入してしまいました。
もうひとりの重要人物も含めて、わたしは元天才(的)な人物が好きなのかもしれません。

アラスカにシトカ特別区という名のユダヤ自治区がある別の歴史を辿った世界。
そして、まもなくアラスカ州へと復帰するためシトカ特別区は無くなってしまう。
この(ある選択によって)存在しているものが、やがて失われてしまう、という感覚が作品全体に漂っていて、それが絶妙な効果を上げています。
かつての選択は取り消せないし、このさき失われてしまうことを止めることもできない。

斬新な比喩とランツマンのぼやき節を追いかけているだけで楽しく読める傑作ですが、派手だか地味だかよく判らない(というか普通は派手に書くところが地味に、地味に書くところを派手に書いている感じがする)ストーリーもけっこう好きです。



プロレスファン的には3冠といえば3冠ヘビー級な訳だけど、その3冠が統一されるときの流れや、統一される前のインター・UN・PWFそれぞれのタイトルを覚えているものにとっては、3冠ということばにはある種のノスタルジックな感情を刺激する響きがあって、それがこの作品と微妙に共鳴した、という個人的な印象があり、3冠に相応しい作品だと勝手に思いました(笑)。