『デス博士の島その他の物語』 ジーン・ウルフ 著 浅倉久志・伊藤典夫・柳下毅一郎 訳 国書刊行会

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)
いずれ劣らぬ傑作・力作ぞろいの短篇(中篇?)集。
やっぱり表題作は素敵だ。
『20世紀SF』の4巻で最初に読んだ時も感動したけれど、今回読んでも改めて良いと思った。
あと一つ(現時点での)お気に入りを選ぶとすれば、巻末の『眼閃の奇蹟』だな。
主人公の少年リトル・ティブが、目が見えない中で世界を認識する方法は、この作品を読みながら読者たる我々が(本にかかれている)活字だけで世界を認識する方法と基本的には同じものだろう。
そしてウルフの小説は読者に、読んでいるとその作品世界が(部分的にだけどくっきりと)見えてくる魔法をかける力があるので、読者と同じような方法で世界を認識するリトル・ティブが(くっきりと)世界を見ているだろうことが、説得力を持つことが出来るのだ。


この作品だけでなく、他の作品(例えば「アイランド博士の死」)でもけっこうベタ過ぎるSFネタ(とかガジェット)が使用されている時もあってちょっと驚くが、それらのネタが作品の中でリアリティを削ぐような脆さはウルフにはないので安心して読める。
それらのネタ&ガジェットが発表当時にはどういう印象(古くさいのか最先端だったのかとか)で読まれたか、気になるところです。