『ムントゥリャサ通りで』ミルチャ・エリアーデ 著 直野敦 訳 法政大学出版局

 ムントゥリャサ通りで
うぎゃー。
凄い。
こんな小説ありなのか…。


ルーマニアの世界的な宗教学・宗教史学者ミルチャ・エリアーデの本を始めて読んだ。
わたしが最初にエリアーデの名前を記憶したのは「SFワンダーランド」(JICC出版局)だったと思う。
それ以来読む機会が巡ってくるのを待っていた。
そして、ようやくその運命は訪れた。



ムントゥリャサ小学校の校長だった老人ファルマが、内務省に勤務するかつての教え子を訪ねたところから物語は始まる。
ファルマが語る昔話は、その教え子だけでなく、様々な人に影響を及ぼしていく。
やがては、政府の高官にまでも…。


この小説を読みながら思い浮かべた一冊の本がある。
竹本健治匣の中の失楽』。
きらびやかな才能を持つ若者たちが、崩壊の予感と共に楽しそうに過ごす様を、多重的な語りで美しく描いている。
こちらでは、ファルマの教え子たちが何かを謀りながら、何かを求めながら生きていく姿を、ファルマが語っていく。
そして両作品に共通するのは、実は語られていない部分に真実が隠されているかもしれない、というところだろう。


一段組み活字でわずか200ページにも満たない作品ながら、折り畳まれたように様々な物語がぎっしりと封じ込められている。


私信
イー君へ。悔しいけど全集も買うよ。