『ディファレンス・エンジン』上・下 ウィリアム・ギブスン+ブルース・スターリング 著 黒丸尚 訳 ハヤカワ文庫SF

ディファレンス・エンジン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)ディファレンス・エンジン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
やはりこの作品の1番のセールスポイントは蒸気コンピュータだろう。
19世紀イギリスに蒸気機関で駆動するコンピュータが存在する世界。
いかにもスチームパンクって感じだ。
と思ったけれど、実は本家スチームパンクのジェイムズ・P・ブレイロック『ホムンクルスK・W・ジーター『悪魔の機械』ティム・パワーズ『アヌビスの門』では、ほとんど蒸気機関は活躍しなかった様な気がする。まあ、昔読んだだけなので、細部までは覚えていないけど。
確か、主に活躍したのはゼンマイとか錬金術とか魔術だったような……。
むしろ『ディファレンス・エンジン』の方が蒸気機関が活躍している。
しかし、この『ディファレンス・エンジン』で重要なのは、蒸気コンピュータの“蒸気”の部分ではなく“コンピュータ”の部分なのだ。
そういう意味ではやっぱりスチームパンクっていうよりサイバーパンクなのかも。
我々の知っている歴史をコンピュータの出現が書き換えてしまうことになる。
そして異形の大英帝国が出現。
この本を読むことは、精密なロンドンの町並みをCGで描いているのを観るような快感がある。
目を凝らせば道を歩く1人1人の服装までも、しっかりと描き込まれているのが判る。
ただし、コンピュータの速度が遅いのか、描画に時間が掛かる感じだけど、そこがまた味わいがあっていい。
じっくりとゆっくりとコンピュータが描き出していくのを観ていると、その世界にある物の成り立ちが判ってくる。
その建物は何からできているのか。その人物の着ている物、持ち物は何か。その世界の空の色にはどんな要素が含まれているのか。
それらを自分の頭の中で組み立てながら読むと、かつて角川ハードカバー版をストーリーを追うように読んでいたときよりも遥かに楽しめた。