『詩羽のいる街』 山本弘  著  角川書店

詩羽のいる街
詩羽という謎の女性に出会う4人の人物。
彼らが視点人物となる中篇4作の連作形式の1冊。
詩羽と出会うことで彼らの人生がどのように変わっていくのか……。


傑作。
人に親切にするのが仕事、という詩羽のキャラがまず凄い。
そして親切にしているだけで生活できることを、物語の中で納得できる形で提示しているのがもっと凄い。
それは1つのシステムを作り上げること。
その示されているシステムに関しては、読む人によっていろいろな読み方できると思う。
ライフハックのようにも生態系のようにも文化論のようにも生活の知恵のようにも。
わたしとしてはそのシステムに全面的な同意はできないけれど、読む上で支障はなかったし、完璧なシステムでないことは自覚的に書かれていると思いました。
でもこの作品の良さはシステムを納得させる理屈っぽさだけでなく、ある意味それ以上の人間ドラマが(そのシステムがないと成り立たないドラマだけど)しっかりと描かれたところでした。
連作形式にした意味も、ドラマ作りにきちんと活かされています。

SFカテゴリーにしましたけど、まあ普通に読むとSFじゃないので(もちろんSFファンは勝手にSFとして読みますが)、SFに興味がない人におすすめしても楽しく読んでいただけると思います。