『ハーモニー』伊藤計劃 著 ハヤカワSFシリーズJコレクション
傑作。
『虐殺器官』以上の娯楽性と思弁性。
広くいろいろな人におすすめできますよ。
伊藤計劃の長篇3作目は、『虐殺器官』のラストから繋がっているかもしれないし、また別の世界のはなしかもしれない近未来。
<大災禍>と呼ばれる(たぶん)大規模な戦乱のあと、平和な社会を実現した世界を舞台に、世界保健機構の螺旋監察官・霧慧トァンが世界を揺るがす事件を追う。
その事件に少女時代の親友の影を感じながら……。
先ず何といっても、この社会の極端な安定のさせ方がすごい。
コンピュータセキュリティならぬ人体セキュリティが発展し、デファクトスタンダードな医療OS(みたいなもの)をほとんどの人が体内に入れており、24時間監視で肉体の安全がチェックされている。
そして人々の精神の安全の方も、倫理的規制と相互監視の強化で万全に保たれている。
このギャグみたいな、でも笑えない怖さのある設定が絶妙。
肉体的にも精神的にも監視を受け入れている社会と、そこに暮らす人々。
その社会ならではの事件であり、その事件の捜査もその社会ならではの手法が駆使されていく。
霧慧トァンは、その奇妙な社会への馴染めなさと明確な行動動機によって、読者をしっかりと導いていってくれるので、物語を素直に追いかけることができる。
そして、最後には想像もできなかったところへ。
女性監察官の活躍と少女時代の社会への反発&友情のエンターテイメントぶりから、この展開は予想できなかった。
満足した気持ちといろいろと考える楽しさを味わえました。
今出ているSFマガジンのインタビューでは、期待の次回作についてもちょっと触れていますね。
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